可愛らしさの欠片もない
申し出を受けて良かったと思ってるのだろうか。甲斐さんにしてもお試しってことだから…。真剣じゃないとしたら?……この早急な関係は…。ただの…セフレになってしまわない?…。
……あ。ふ~んのあとは、もう続かないの?
今度は私に聞けって言ってるの?
「一人暮らし、長いのか?」
「え?はい。長い?…社会人になると同時に一人暮らしを始めましたから」
「そうか」
わざと社会人になってからって言ってみたのに。大卒とか、高卒とか、そこら辺を聞くのかなと思ったんだけど。そこは特に興味はない、と…。
「あ、お水、持って来ましょうか」
「あ、うん、そうだな、悪い」
「いいえ」
要るってことだ。回されていた腕をほどこうとして指先を軽く握られた。…こんな…ドキドキする。脱いであった服に手を伸ばし慌てて拾って頭から被った。ベッドから下りてつま先立ちで軽く駆けた。
……はぁ、心臓がうるさい…。背中に視線を感じた。何だかずっと目で追われてる。そんな気がして急いだんだけど。何をしてもこんな…事後は恥ずかしい。…勿論、最中だって…。頬に手を当てた。……はぁ、…熱い。
冷蔵庫を覗き込み、ボトルを手にした。
お水って聞いたからお水がいいよね、私は先に失礼して…伏せてあったカップに手を伸ばし、豆乳のパックを取り出し傾けた。トプン、トプンといつも跳ねる。半分ほど入れたところで止めた。
はい、何でも豆乳ですよ。ごくごくと一気に飲み干し、戻ろうとした。
「優李…」
「わっ」
腕を回された。気を抜いていた。全く気配を感じなかった。
「…ハハ、色気のない反応だな…ん」
あ…。後ろから回されていた腕は離れ、くるりと回されると顔を包み唇を塞いだ。……色気って…だって本気でびっくりしたから…。まだ心臓が踊ってる。
「ん…。ん?何の味だ?牛乳か?」
「…豆乳です、…これです」
冷蔵庫の中を指して言った。
「あー、なるほどね。……優李」
あっ。抱き寄せられた。冷たい手が中に…体に触れられただけで、もう…鳥肌が一気に出た。
「駄目です…」
「……駄目なのか…」
そういう聞き方は…あ。そう言ってる間だって…。
「…ここでは…駄目ってことか、…ん」
こんな風にしながら甘く囁かないでください。…キッチンでなんて…。
「あ…、はい、お水です、お水どうぞ」
やんわりと離れボトルを押し付けるように渡した。…もう、本当…、頭がついていかない。確かに関係は持ってるけど、その親密ぶりと比較して、それを除いた関係では、まだそんなに親しくなれてない気がするんだけど。だから、どうしても言葉遣いも敬語になってしまうし。
なんなら、言い合っている方がずっと、ぐっと近くなれてる気がする。かといって、意味もなく喧嘩は出来るものでもないけど。
「優李は言葉を発するより考えてる時間の方が長いよな。癖みたいになってるのか。だから一人暮らしは長いのかって聞いたんだ」
お水を受け取ると飲んだ。ボトルはキッチンに置かれた。ここでのことは諦めてくれたようだ。と思っていたら、冷たい唇が触れ、離れた。また触れた。両手を握られた。……見上げた。…輪郭がはっきりした…形の良い唇…。
そのまま手を引かれ、ベッドに戻った。