可愛らしさの欠片もない

まだ何も進展はないのだろう。そんなに急展開するものでもないだろう。
あれからまだ数日しか経っていない。奥さんとのこと、明確にしたいという思いはあっても、特に急かす気もない。直接会ったこともない、面識がないことが却って存在を実感させてないからだと思う。
私達にもう節度はない。良くない関係だと思ってる。それは解ってる。こういうことをしていて、甲斐さんは不利にならないのかと心配にはなるけど。
難しいことは解らない。双方の弁護士は依頼人に有利になるように仕事をする、そういうものだと思ってる。離婚の話をしている最中、その話に影響はしないのだろうか。そんなことも気にすると確認してみたいけど。そこは甲斐さんのことだから大丈夫だと言いそうだ。大丈夫じゃないとしてもだ。
何年も別居してる。夫婦関係はとうにない。自分の女性関係は調停後のことだ、とかなんとか。不利になるというなら、こうなることを望んだりしてないだろう、そこは理性というもので判断したと思いたい。……あっ、いや、……真剣交際ではない、単なる遊び、遊びの女だ、と言えば済む、とか……。

誰だって考えごとはするだろう。その頻度や時間の長さもそれぞれだろう。こうして口に出さず考えを巡らすことは一人で居る大半ずっとしている、習慣のようなものだ。誰かを前にした暮らしをしていないからだ。沈黙は許される。話しかける必要のない生活がそうさせる。

「…優李…嫌か?」

「あ、…そんなことは…」

その気がない、上の空だって思われたんだ。…嫌ではない。そんなことは決してない。考え事をしていながら体を合わせていると簡単に解ってしまうものだ。
『一人で考えている時間の方が長い』。その通りだ。言いたいことが言えない、のではなく、話すことを必要としないからだ。
話せば話す。饒舌とまではいかないにしても。
意固地になって話さないということもない。プライベートを除けば、仕事では話している。話さなければ成り立たない。
…もっと沢山、思ってることを口に出して自分と話せ、ということだろうか。
< 92 / 150 >

この作品をシェア

pagetop