旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
どこに向かおうか迷った挙句、結局会社の近くでタクシーを降りた。土地勘がない場所よりはいいだろう。少し歩けばビジネスホテルが何軒かあるはずだ。
疲れた体でふらふら歩いていると、ぐううとお腹が鳴った。そういえば上田さんのクッキー一枚と紅茶、ホテルのコーヒーしか口にしてなかったんだ。
「お腹……減った……」
相当なショックを受けたにも関わらずお腹が空く自分に、ビックリだ。
私は飲食店を求めて歩き出した。秘書課時代に原田さんと一緒に行ったお店が近くにあったはず。
記憶が戻った私は、まず原田さんとランチをしたカフェに向かった。果たして、ちゃんと覚えていた場所にそのカフェはあった。しかも。
「あっ!」
お店のガラスに外から張り付くと、中で座っていた原田さんが、驚いた表情でこちらを見ていた。彼女の前にはサラダとパスタが置かれている。飲み物はアイスティーだ。
「原田……しゃん……」
ずるずると妖怪のようにへたり込む私。疲労と空腹の限界だった。まさかこの現代日本で行き倒れることになろうとは……。