旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 原田さんは午前中の不審者騒ぎも知っていた。被害者が私であることも。

 午後に庶務課を尋ねてくれたが、私はすでに早退したあとだった。

「原田さん……聞いてくださいよぉ~」

 原田さんの優しさが胸に染みて、思わず泣けてきた。しゃくりあげる私の横に、誰かが立つ音がした。

「何やってんの」

「あー佐原ちゃん、お疲れー」

 名前を聞き、バッと顔を上げた。涙を拭くと、そこには仏頂面の佐原さんが。

「今日は私と食事する約束だったじゃない。どうしてまたこの子がいるの?」

 佐原さんは全く優しくない口調で、私をビシッと指さす。原田さんは眉を下げて困ったように微笑む。

「だって、この格好で行き倒れてたのよ。心配じゃない」

「まあ……そうね」

 もともと原田さんは佐原さんとここで待ち合わせしていたらしい。えらいところに乱入してしまったと思っても後の祭りだ。

 佐原さんは原田さんの横に座り、ドリアを注文した。店員がいなくなるなり、腕を組んで私を見下ろす。

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