旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「で? お嬢様が貧民みたいにパスタをがっついている理由はなんなの?」
少し前から見られていたらしい。恥ずかしさや情けなさでうつむく私の代わりに、原田さんがおっとりと答える。
「それは私も今から聞こうと思ったんだけど……」
原田さんは「ねえ」と私に同意を求める。私、今日みんなに困った顔や悲しい顔ばかりさせている。
でも、私だって困っているし、泣きたいんだ。
「お二人とも、聞いてください……食べながらでいいんで……」
原田さんが佐原さんに目配せする。原田さんは興味なさそうに、出されたドリアにスプーンを入れながら言った。
「勝手にしゃべれば」
不思議と、佐原さんの怒っているのに近い無表情に安心した。
私を心配して、労わって、愛してくれていると思わせた人たちの表情がことごとく嘘だった。そのショックで、誰かの笑顔さえ怖く感じるのかもしれない。
「実は」
私は記憶を取り戻したこと、記憶喪失の前に婚約者がいたのに、喪失直後に景虎と夫婦だと教えられたことなど、綾人に会って聞いたことをぽつぽつと話す。