旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「まあまあ、その話は置いておいて」
原田さんが透明の箱を手で持って動かすようなジェスチャーをした。
「副社長とご両親が結託して、萌奈ちゃんを騙していたってことよね。夫婦だと言って同居までさせておいて、実は入籍もまだだったと」
「意味不明だな。どうしてそんなことをしたんだろう」
正面のふたりは首を傾げた。私にもわからない。
私と副社長を政略結婚させたいなら、ちゃんと綾人との話を筋道つけて断り、綺麗にしてから次の結婚話をした方がよかったんじゃ。
私が記憶喪失になってしまったから、面倒を省いて「もう結婚したことにしちゃえ」って思ったのかな。
「だって、あなたが急に記憶を取り戻す事態だって考えられるじゃない。今日みたいに」
「ですよね……」
「そうなっても、副社長には自分が選ばれる自信があったんじゃない?」
原田さんが言うと、佐原さんが眉を顰めた。
「結局、元婚約者から彼女を横取りしたってことじゃない」
「そうなるわね」
「そんなに急いだってことは、何か事情があるんでしょうか」