旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
そのタイトルは、現在の私の記憶にも深く刻まれているものだった。
なんのことはないよくあるラブストーリーだったけど、何度読み返しても涙が溢れる。高校生のときに出会った本だった。
「俺たちは会社の図書室で出会ったんだ」
「資料が置いてあるような部屋ですか?」
「そう。各社新聞や医療の専門雑誌や専門書が主だけど、俺の趣味でそうではない本も少し置いてある」
私はその図書室を思い浮かべようとした。でも、うまくできなかった。
「利用者はごくわずかだから、ほぼ俺の休憩室になっていたんだけど」
いや……それは、副社長がいるからみんなが入りにくかったんじゃあ。
話の腰を折るといけないので、黙っておく。
「俺がくつろいでいたら、君がおそるおそるドアを開けて話しかけてきたんだ。『お邪魔してもいいですか』って」
懐かしそうに、彼は目を細める。
私はその時のことを思い出せない。
副社長がくつろいでいる図書室に、よく入ろうとしたものだ。