旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 母が何を言っているのかわからず、私はカラカラに乾いた喉で反論する。

「何言ってるの? クッキー、昨日まで家にいたでしょ? それにまだ私、三回生だよ。卒業旅行っていつのこと言っているの?」

 さっと医者と看護師の顔色が変わったのを、私は視界の端でとらえていた。

「綾瀬さん。今、何年かわかります?」

「何年って、今年は平成……」

「平成!?」

 大きな声を出した母を、看護師が制した。

「去年元号が変わったのを覚えていませんか」

「ええ? やだなあ、そんな大事があったら、いくら私でも覚えてますよ」

 友達に「ぽやんとしている」と言われる私だけど、元号が変わったらさすがにわかる。

 あははと笑う私とは対称的に、他の皆はシーンと静まり返った。

「今、何歳でしたっけ?」

「二十歳です。もうすぐ二十一……えっ、お母さん!?」

 答えている途中で、母がふーっと細い息を吐いて仰向けに倒れそうになる。床に頭を打ちつける前に、看護師さんが支えてくれた。

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