嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「俺が選んでもいい?」

 こくこく、とうなずく。仁くんは店員を呼び、私が聞いたことのないカクテルの名前を告げ、自分用にとワインを注文した。

 慣れた様子にかっこいいなと胸をときめかせる反面、自分が小さな子供になったかのような恥ずかしさを覚える。

「仁くんはお酒が好きなの?」

「ああ」

 返事、それだけ?

 そういえば昔から言葉数は少ない人だったと思い出す。

 それでも会話が成立していたのは、今のように緊張感もなく無邪気に話しかけていた過去の自分のおかげだ。

 でもなぁ。どう頑張っても昔みたいに接するなんて無理だよ。

 仁くんが頼んでくれたカクテルはオレンジジュースのようでとても飲みやすかった。

「おいしい」

「それならよかった」

 仁くんは目も合わさずに淡々とした口調で言う。

 もやもやしている胸をスッキリさせるために、私もソルベが盛られた冷たいグラスを手に取った。

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