嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 私の顔も相当なものだったのか、阿久津さんが眉間に皺を寄せて不機嫌そうに言い放った。

「そんなわけないでしょ。俺の恋愛対象は女の子だから」

 よかった。同僚がライバルにならなくて。

 私と同じくらい安心しきった顔になった萌は、「びっくりした」と肩から力を抜いた。それからなにか面白いことを思いついた子供のように、口角を引き上げてニヤッと笑う。

「もしかして朝霧さんも恋の悩みだったりして」

「それ、ありえるかも。あのカッコよさで彼女がいない方がおかしいくらいだよね。でも朝霧さんの浮いた話って聞いたことないんだよなぁ」

「花帆は知らないの? 幼馴染なんだし」

 なんてきわどい質問。

「知らないよ」

 何食わぬ顔で答えたけれど、ぶわっと嫌な汗が噴き出してきた。

「そっかぁ。朝霧さんが選ぶ女性ってどんな人だろう。きっとすごく美人だろうなぁ」

 悪意のない萌の発言がグサグサと胸に突き刺さって痛い。

 普通はそう思うよね。私だって不釣り合いなのは自覚している。

 立場だけでなく外見的なものまで格差がありすぎて、物心ついた頃からそれを感じていたからこそ告白ができなかったのだ。
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