嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 結局それから当たり障りのない世間話をして盛り上がり、気分転換ができたところで解散した。

「だんだん日が長くなってきましたね」

 方向が同じだという阿久津さんが家まで送っていくときかないのでやむを得ずお願いした。

「あっという間に夏が来るね」

 十九時を回っても辺りは明るく、まだ夕方なんじゃないかと錯覚を起こす。

 阿久津さんの優しさに感心しつつ、朝霧家の近くにコンビニがあってよかったと胸を撫でおろす。

「買うものがあるのでここで大丈夫です」

「本当に?」

「家もすぐそこですから」

「香月さん隙がありありだし可愛いから気をつけてね」

「はあ。どこから突っ込んでいいか分からないんですけど」

 阿久津さんに可愛いと言われてもドキッとしないのは、彼が中性的なせいだろう。

 阿久津さんがおかしそうに声を転がして笑っていると。

「お疲れ様」

 いきなり背後から声がして心臓が縮こまった。

 振り返るとそこには相も変わらず綺麗な顔の仁くんが立っていて。

「び、びっくりした」

「お疲れ様です!」

 胸に手をあてて呼吸を整える私とは対照的に、阿久津さんは背筋をピンと伸ばして礼儀正しい挨拶をした。

「ふたりでどこか行っていたのか?」

 仁くんの顔は阿久津さんに向けられている。

 珍しい。仁くんがプライベートで従業員に声をかけるなんて。
< 109 / 214 >

この作品をシェア

pagetop