嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 今日は木曜日。『遊茶屋(ゆうちゃや)』の営業日だ。茶屋といっても本格的なカフェではなく、工房と併設されている朝霧菓匠の店内にカウンター席が設置されているだけ。でもカウンター越しに熟練の職人が生菓子を作る過程を間近で見られるので、人気が高くいつも予約でいっぱいだ。

 阿久津さんは今その茶屋で使用する餡の下準備をしている。

 身長は百七十六センチで、がっしりとした体格と目鼻立ちがくっきりとした濃い顔が特徴的。

 顔のパーツもそれぞれ整っているので、好きな人は好きな顔なんだろうなぁ。

 私は仁くんのような、どこからともなく春風が流れてくるような爽やかな人が好きだけれど。

「阿久津さん何時に出勤したんですか」

 私の質問に、阿久津さんは疲れ気味の目をギュッとつぶってから口を開く。

「四時」

「四時!?」

 驚きの声を先に上げたのは、隣で一緒に洗い物をしていた同僚の足立萌(あだちもえ)だった。
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