嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 今年朝霧菓匠に職人を希望して入社した中で女性は私と萌しかいない。同じ年齢というのもあって私たちはすぐに打ち解けた。

 仕事のときは綺麗なはちみつ色のミディアムロングをひとつにまとめ、メイクは薄くファンデーションを塗って眉毛だけしか描いていないという姿。しかし定休日である月曜日に顔を合わせたときはきちんと化粧をしており、それはもう同性の私ですら胸がドキドキするほど色気が漂う美人さんだった。

 私も人並みに流行が気になるしお洒落に興味がある。でも頑張って着飾っても萌みたいな女性らしい雰囲気は醸し出せない。

 萌は百六十二センチの身長ですらっとしているけれど、私は百五十六センチしかない。もうそこからして負けている。いや、勝ち負けではないのだけれど。

 せめて結婚式までに髪だけは伸ばそうと、茶色く染めた鎖骨まである髪の手入れには気を使っている。

「阿久津さん倒れちゃう」

 心配そうに眉を下げた萌を、阿久津さんはおかしそうに笑い飛ばした。

「これくらいで倒れていたら職人なんて務まらないって」

「そうなんですね……」

 萌は浮かない顔をして口を閉ざした。

 そりゃあ不安になるよね。

 私なんて面と向かってハッキリと仁くんに『やめたほうがいい』と言われたし。
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