嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 ひと昔前と比べて女性の和菓子職人は増加傾向にある。それでも男性の方が圧倒的に多く女性は一握り。

 学校で製菓を学んだ多くの女性は洋菓子の世界に進んだり、まったく別の仕事に就いて趣味として菓子作りを楽しんでいるという現状がうかがえる。

 どうしてかというと、特に見習い期間中は力仕事が多く体力勝負だからだ。

 常に火を扱うため工房内はいつも暑く、早朝から一日中立ちっぱなしの作業はかなり堪える。

 実際、入社四日目にして生理に見舞われた私は何度も貧血を起こして倒れそうになった。

 表情を曇らせた萌に気づいたのか、阿久津さんは明るい声で言う。

「この餡ができあがったら店に届けるから。ふたりも一緒について来て」

「それって……」

 萌の声が期待に満ちている。

「今日は馴染みのお客さんだから実演を見学していいって、朝霧さんが」

「やったー!」

 さっきまでの憂いを帯びた顔はなんだったのかというくらい、萌は目をキラキラさせて歓喜した。
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