嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「そうか。喉渇いているだろう。そこの自動販売機で買ってくるから座って待っていて。それともどこか落ち着いて話ができる場所に移動するか」

 ひとまず飲み物を用意して座らない限り話を戻す気はないらしい。

「ここで話がしたい。飲み物は一緒に買いに行く」

 その方がすぐに話を再開できる。

「分かった」

 仁くんはふっと笑う。

 その笑顔がとてもやわらかくて、胸が痛いくらいにキュンッと鳴った。

 家を出て目と鼻の先にある自動販売機で飲み物をふたつ買う。

 私は財布を持っていないので、仁くんに払ってもらった。

「ありがとう」

「別にこれくらい。結婚したら同じ財布になるんだし」

 えっと。やっぱりさっきの好きっていうのは聞き間違いじゃないんだよね。

 みんなに怒られて、どうにか取り繕うとしている? だからやっぱり考え直した?

 自分の立ち位置が曖昧なせいで反応に困る。

 仁くんは、はなから返事など求めていなかったのか、私の手を取ってスタスタと歩いて家に戻った。

 水分補給を済ませると私たちは改めてソファで向き直った。

「さっき父さんたちに話していたことだけど、聞いていたんだよな?」

 ドキドキと高鳴る心音を聞きながらこくりと頷く。

 緊張する……。
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