嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「幼稚園なんてまだ好きという感情を理解しきれていないんじゃないか? それは本当に好きっていえるのかどうか」

「好きは好きでしょ?」

 食い気味で言うと、仁くんは目もとに微笑をたたえて「そうか」と頷く。

 遊茶屋のカウンター越しに見せてもらえる笑顔がうらやましくて、お客さんに何度も嫉妬した。それが今は私だけに向けられている。

 こんなに幸せで大丈夫かな。この後急転直下とかしないよね。

「たいした人間じゃないのに。好きになってくれてありがとう」

「それはこっちの台詞だよ。仁くんなら絶世の美女を射止められるのに」

「花帆以上の女の子はいないから」

 うっわぁー!!

 甘すぎる言葉に身悶えて、心のなかで絶叫する。

 再び襲われた胸の痛みに耐えていると、仁くんが心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうした?」

「ちょっと刺激が強くて……」

「刺激? たいしたことはしていないだろう」

 いえいえ、していますとも! というか顔、近い!

 さりげなく後退りする。

「なんなら、これからが本番なんだけど」

 また間合いを詰めてきた仁くんの顔は悪戯っ子のように笑っている。

 カッコいい……!

「ダメ、待って。心臓に悪い」

 手のひらを突き出してギブアップ宣言をする。すると仁くんは私の手首を掴んで自身の唇に寄せた。手のひらにチュッと音を立ててキスをされて「うわあ!」と今度こそ叫んだ。
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