嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「さてと。せっかく花帆の家に来たんだし、例のドレッサーを運ぶか」

「えっ、今?」

 驚く私をよそに仁くんはすぐに行動に移した。

 まずうちの駐車場に停めてある、仁くんの車の後部座席を倒してフラットにする。

 詳しくないので車名は分からないけれど、高級車として人気の高いエンブレムは見覚えがある。黒色の車体は近付くのも躊躇するほど綺麗に磨かれて光っていて、車内はゴミひとつなく、なんだかいい匂いがした。

 うちのお父さんの車とは大違いだ。

「綺麗なのに汚れちゃわない?」

「車は消耗品だから汚れていいんだよ」

「でも、高いでしょ?」

「いい車は、事故に遭った時、値段相応に守ってくれるだろう」

「そういうものなの?」

「事故に遭わないのが一番だけどな」

 世間話をするトーンで説明を受けたけれど、仁くんの過去を聞いたばかりだから胸が痛む。

 だけど仁くんがいつもと変わらない顔をしているから、私も明るい顔を崩さないようにした。
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