嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
仁くんはドレッサーを慣れた手つきで解体して、数回に分けて運び出す。
私の部屋は二階なので、ひとりでは階段を降りる時に足元が見えなくて危険だ。だから私も一緒に運ぶと申し出たのに、絶対に持たせてはくれなかった。
ドレッサー以外にも、お気に入りのクッションや子供の頃から大事にしているぬいぐるみなど、いろいろと車に詰め込んだ。
仁くんが車を運転するところを見るのは初めて。ハンドルを握る指が細長くて色っぽいなぁとか、横から見るフェイスラインが綺麗だなぁとか、仁くんが前を向いているのをいいことに好き勝手眺めていたら、見すぎだと苦笑された。
朝霧家に到着して車から降りる。物音を聞きつけた社長と弥生さんが表に出て来た。
「お帰りなさい」
向けられた弥生さんのふわふわとした声と笑顔に安心感が全身に広がった。
「お騒がせしました」
「いいのよ~」
「なにを持って帰ってきたんだ? 花帆ちゃんの花嫁道具か?」
社長が車の中を覗き込む。
「そんなところだな。運ぶから手伝って」
仁くんだけでなく社長に重たいものを持たせるなんて。
「まって、私が……」
「花帆はぬいぐるみとかにして」
ぴしゃりと遮られた。
「おじさんこう見えて力持ちなんだぞ」
社長が誇らしげに言う。
そりゃそうだ。仁くんと同じく、長きにわたって和菓子職人をしているのだから。