嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「二度寝したの?」

「誰かさんたちに邪魔されたからな」

「ごめん」

「ありがとな」

 杏ちゃんは、頭を下げた私と仁くんを黙って見つめる。

「雨降って地固まるってやつか」

 それからいつもの人懐っこい笑顔を作った。

「母さん、俺のご飯もあるの?」

「あるわよ~」

「待って、俺の卵は半熟にして」

 杏ちゃんがキッチンへ歩み寄る。

「私も作り方見たい」

 立ち上がりかけたところで腕を引っ張られ、ストンッとその場に腰を下ろした。

 何事かと腕を引いた張本人を見る。

「花帆はここにいて」

「でもっ」

「今日くらいいいだろう」

 そう言われてしまうと動けない。

 だから、さっきから言動が甘すぎるんだよ。

 腕を掴んでいた手が離れていったかと思ったら、すぐに手の指を絡ませてきた。いわゆる恋人繋ぎ。

 唇がふるふると震える。叫び出したいのを我慢したら勝手に震えた。

 キッチンにいるふたりをカウンター越しに見る。美味しそうな音を立てるフライパンを覗き込んでいる。

 続いて正面へ目線を動かすと、新聞を読んでいる社長の口角がぴくぴくと動いていた。

 笑いたいのを堪えてる!

 もう限界だと繋いでいる手をほどこうと試みたが、もっと強い力で手の動きを封じ込められて、なすすべがなくなった。
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