嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
軽口を挟むことで、重くなりそうだった空気を蹴散らせたのは分かっている。
「いいんじゃないか?」
「そうね。会って、なにかが変わるのなら、会うべきだと思うわ」
弥生さんと社長が同意すると、仁くんは隣にいる私にだけ分かるような細い息をついた。
仁くんでも緊張したりするんだなぁ。
いったいどんな人なんだろう。仁くんは弥生さんに似ているから、きっと沙倉さんにも似ているはず。
「できれば式の前に直接会って話したい」
「それは……」
弥生さんが口を噤んだ。
そもそも、その沙倉さんという人はどこにいるのだろう。
成り行きを静かに見守る。
「分かったわ。行ってらっしゃい」
しばらく逡巡した後、弥生さんはにっこりと笑った。その横で社長も大きく頷く。
「花帆。ついて来てくれるか?」
急に振られて「えっ」と詰まったけれど、どこか不安げな顔をしている仁くんを見つめていたら自然と頷いていた。
岐路に立つ仁くんの隣にいさせてもらえる。少しでも仁くんを支えられる存在になれたらいいな。
こうして、杏ちゃんの言葉が一番当てはまる『雨降って地固まる』というように、私と仁くんの関係も、朝霧家の繋がりも一層深いものとなったのだった。