嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

 わけが分からず小首を傾げる。

 その間も仁くんは黙って私を見据えていて、逃げられない私は素直に頷くしかなかった。

 赤くなった顔を見られないように俯かせていたら、下から持ち上げられるようにキスをされ
た。

「んっ……」

 押し付けられた唇が熱い。

 そっと唇を離すと、触れるか触れないかの距離で仁くんは囁く。

「ふたりきりになれる場所へ行こう」

 吐息が肌にかかる。

「ここじゃなくて?」

「もっと雰囲気のあるところがいいからな」

 それは……そういうことだよね。

 雰囲気のあるところってどこだろう。

 仁くんはおもむろにスマートフォンを手にして電話をかけた。

「久し振り。ちょっと頼みごとがあるんだけど。これからどこでもいいから用意できないか?」

 親しそうな口調だけど、電話の相手は友達なのかな。

 休みの日も工房で過ごしてばかりの仁くんの交友関係は、杏ちゃんに聞いても知りえなかった。

 短い通話を終えた仁くんがふわりと微笑む。

 笑顔が眩しい。仁くんの周りだけ光が当てられているかのようだ。目がチカチカする。
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