嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 最初こそは戸惑ったものの今ではすっかり慣れた。むしろとっつきにくい男の人より乙女っぽい方が接しやすい。

「阿久津さん、本当に朝霧さんのこと好きですよね」

 萌が若干引いた顔をしている。

「そりゃあそうでしょ! 小学三年生のときから和菓子に触れて、それからずっと修行してきた人だよ? 反抗期も青春時代もすべて和菓子作りに注ぐって並大抵の精神力じゃないし、強い意思がないと続かないんだから!」

 阿久津さんは仁くんへの愛と敬意が感じられる口調で語った。

 入社五年目になる阿久津さんだが、年齢は私と萌のふたつ上である二十三歳。

 和菓子職人になる道は大きく分けてふたつあり、和菓子の専門学校や製菓学校の和菓子コースを卒業後、和菓子メーカーや和菓子店に就職するか、高校卒業後、同様に就職するか弟子入りするという方法がある。

 私と萌は前者で、阿久津さんは後者だ。

 仁くんを崇拝していて、彼の作る和菓子と人柄に惚れて高校卒業後に入社したと聞かされたが、阿久津さんの仁くんへの想いは本当に強く、同じ気持ちを持っている私としては勝手に親近感を覚えている。
< 16 / 214 >

この作品をシェア

pagetop