嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

 慣れた様子でホテルの地下駐車場に車を停めて、迷う様子もなくホテル内に入っていく。

 私は初めて訪れたけれど、仁くんはそうじゃないみたいだ。

 誰と来たのかな。仕事関係であるといいんだけど……。

 隣に並んで歩く、白いシャツにグレージャケット、ネイビーパンツを合わせたカジュアルなファッションの仁くんを見上げる。

 どうせ部屋から出ないからとリラックスできる服装にしたらしいけれど、十分ラグジュアリーホテルに合う出で立ちだ。

 いつもより高いヒールのおかげ身長差が縮まったのはいい。だけど、おろしたての靴はまだ私の足に馴染んでおらず、歩く度に痛みが走る。

 場所が場所だし、頭のてっぺんからつま先まで完璧な仁くんの隣を歩くのなら、私もフル装備で挑みたかったからこの靴にした。

 今日のところはなんとかやり過ごせるかな。遠出とかの予定じゃなくてよかった。

 すぐにエレベーターで上階へ昇ると思っていたのに、仁くんが足を運んだのは商業施設が並ぶフロアだった。

「気に入るのがあるといいんだけど」

 手を引かれて入ったのは、お洒落に興味がある女性ならだいたい知っているであろう高級靴ブランドのお店。

 私もいつかは履いてみたいと憧れていた靴が棚にたくさん飾られている。

「遠慮しなくていいから好きなのを選んで」

「どうして靴を買うの?」

 いきなりの展開に呆気に取られる。
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