嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
会いたいと思わなかったのかな。それとも会いたくても簡単に会えるようなものではないのかな。
聞きたい気持ちをじっと我慢して、仁くんの方に身体を向ける。
「じゃあさ、会話のきっかけになるように、仁くんの作った和菓子を持っていくのはどうかな」
「俺が作ったものを?」
「こんなにも立派になりましたって、報告もかねてさ」
これ以上重苦しい雰囲気にならないように、つとめて明るい口調で提案する。
「そうだな。そうしてみるか」
「そうと決まればなにを作るか考えないとね」
「新しいものを考えるのか?」
仁くんが面食らってポカンとしている。
「沙倉さんをイメージして、この世にひとつしかないものにしようよ」
言ってから、さすがに空回りしているかもしれないと思った。
仁くんが小難しい色を浮かべて明らかに困っている。
「で、でも、仁くんは忙しいし、できたらなんだけど」
五月に入り、お店に並ぶ商品は様変わりしたばかり。端午の節句のお菓子である、柏餅やちまきなどを求めた来店は落ち着きをみせてはいるものの、いつも通り季節の生菓子を求めて来店するお客様は多い。
「自分で作った経験もないくせに、簡単に新しいものを作ろうなんて軽はずみな発言しちゃってごめん」
「いや、いい考えだよ。ただあの人のイメージが湧かないな、と」
微妙な表情の理由が分かって胸をなでおろす。