嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

 社長が呼び鈴を押す。

 大丈夫かな。ちゃんとご挨拶できるかな……。

 気をしっかり持とうと手足にぐっと力を入れ、腕が触れあう近さで隣に立つ仁くんを見上げた。

 仁くんも緊張しているよね。

 真っ直ぐ前を向いている横顔から緊迫感がひしひしと伝わってくる。

 出迎えてくれたのは、笑い皺がとてもよく似合う女性だった。ベリーショートのグレイヘアも、ブルージーンズに襟をピンッと立てた白のシャツをカッコよく着こなしているのもすっごくお洒落。

 会えばおぼろげな記憶が鮮明に蘇るかと期待していたけれど、やはりほぼ初めて会うような感覚だった。

「いらっしゃい。遠かったでしょ」

 物腰はやわらかく品があり、なんて素敵なマダムなのかと見惚れた。

「仁も杏太もおおきくなったわね」

「最後に会った時から背は伸びてないよ~」

「そういうことじゃないのよ」

 杏ちゃんの軽口に目を弓なりにして笑う。その笑顔をたたえたま私へと視線を流した。

「花帆ちゃんも綺麗になったわねぇ」

「ご無沙汰しています。この度は……」

「虫が入るからさっさとなかに入ったらどうだ」

 挨拶をしようとしたところで、朝霧のおばあさまの後ろから男性の苦笑交じりの声が飛んできた。

「そうね。ついうれしくなっちゃって。ごめんなさいね」

 おばあさまが笑いながら家のなかへ招き入れてくれる。
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