嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する

 ひとつだと思っていた化粧箱が三箱もあって驚いた。

「まずこれはじいさんたちに。五月の上生菓子だ」

「あら。なにかしら?」

 おばあさまが手を止めて箱に近寄った。おじいさまは白い生地にトマトやコーン、サラミなどを並べながら口を開く。

「花菖蒲、五月雨、つつじ、だったか」

 さすが朝霧菓匠の創設者。現役を引退しても季節のお菓子はきちんと把握しているらしい。

 おばあさまが早速箱を開けて、沙倉さんと共になかを覗き込む。

「綺麗。仁が作ったの?」

 沙倉さんが聞き、仁くんが頷く。

「そうなんだ……」

 胸にぐっとくるものがあったのか、沙倉さんは唇を真っ直ぐに結んで瞳を揺らした。

「本当に綺麗。食べるのがもったいないわね。ま、食べるけど」

 おばあさまの言葉で空気が少しやわらかくなる。

 花菖蒲は紫と白の練り切りを二段に重ねて伸ばし、餡を三方から包み込んで花の形に仕上げたもの。

 五月雨は、流し物と呼ばれるゼラチンなどを用いて材料を寄せ固めたもので、白羊羹を染めてグラデーションにしていて、鮮やかな青、淡い水色、白色の三層になっている。

 つつじは満開の咲き乱れる様をきんとんで表現していて、なかはこし餡で葉は羊羹。ピンクの濃淡がとても綺麗で華やかだ。
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