嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 注いでもらったビールを飲みながら、正面に座ってにこにこしている顔を眺める。

「相変わらず好きだな」

 食べるわけでもなく、化粧箱を広げて和菓子を見つめていた花帆は「ん?」と首を傾げた。

「なにが?」

「この時期だけは、飽きもせずにこればかり買っているだろう」

 花帆は大きくて愛くるしい目を更に見開き驚いた。

「え! どうして知ってるの?」

「長尾さんが言っていた」

 さらっと答えると、花帆は両手で顔を隠して「うわぁ……」呻き声を出す。

「恥ずかしいなぁ」

 手をどけて露わになった肌はほんのり桜色に染まっていて、本当に恥ずかしがっている様子だった。

「恥ずかしい?」

「だって、食べすぎじゃない?」

「食べたいなら食べればいいんじゃないか?」

「そ、そうだよね。でも、いつも食べているわけじゃないんだよ?」

 なにをそんなに必死になっているんだ?

 昔は手に取るように理解できた花帆の心情は、成熟した女性となった今ではまったく分からない。

「これもたぶん食べきれないから、杏ちゃんと半分こしようかなって思っていたし」

 どうしてここで杏太の名前が出てくるんだ。

 チリッと胸を焼くような痛みを感じてビールを腹に流し込む。
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