嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「花帆はいつまでそれを眺めているんだ?」

 缶ビールはもう空になったというのに、花帆はテーブルに肘をついて和菓子を眺めるという体勢から変化していない。

「好きなんだよねぇ」

 俺の質問に、花帆は表情をやわらかくして答える。

「桜餅が?」

「桜餅は鉄板だよね。でもそれだけじゃないよ。全部好き」

 上生菓子は基本的に俺と父親がメインで考えている。一生懸命考えて作った自信作を好きと言ってもらえて、まるで俺自身を好きと言われたような錯覚を起こす。

 とくに花帆が好む桜餅は、創立当初からある商品で祖父が考えたもの。さっぱりとした生地に、上品で甘さ控えめの小豆こし餡が包まれている。

 それともうひとつ、通常の桜餅に加え俺が新たに商品として加えた道明寺桜餅。これは関西風で、昔からある方は関東風だ。

 お米の食感が残るつぶつぶとした皮と、丸みを帯びたフォルムが可愛らしいので、若い世代の女性が好む見た目だと思い商品化に至った。

「粒さくらは口の中でふわっと溶けるのがなんとも言えない」

 ふふふっと笑った花帆の頬っぺたを見て、粒さくらと同じくらいやわらかそうだなと思う。
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