嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 粒さくらは一口サイズの求肥(ぎゅうひ)だ。求肥とは和菓子の材料のひとつで、白玉粉または餅粉に砂糖や水飴を加えて練り上げたもの。

 粒さくらの求肥には桜の葉の塩漬けが入っており、これによって桜餅のような風味を醸し出している。そしてとくに重要視したのが口の中でとろけるような食感。

 俺が目指したものを的確に言い当てている。

 花帆はとにかく勉強熱心で和菓子に対して強い情熱を抱いている。だからこそ応援したいと思っているし、いつか一人前の職人として成功してほしい。

「こんな素敵な和菓子を作っちゃうなんて、仁くんは本当にすごいよ」

「……ありがとう」

 熱の入った口調から花帆の想いが伝わってきて柄にもなく照れる。

 花帆が和菓子職人を志すようになったのは、間違いなく身近に朝霧菓匠の存在があったからだ。

 だから跡継ぎである俺との結婚も承諾したんだよな。

 俺に気があるわけないし。

 好きと言ってもらえるのは自分自身ではなく自分の作り上げた和菓子。

 なんともいえない気持ちに包まれて、空になった缶をぐしゃりと握りつぶした。

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