嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「後は水を入れて、ルーを溶かして、味を調えたら終わりだよ。簡単だろ?」

「う、うん。そうだね」

「暑かった? 顔が赤いけど」

「うん! そう! 熱気がね!」

 手をうちわにしてパタパタと扇ぐ。私の言葉を真に受けた仁くんはキッチンの横にある小窓を開けて換気をした。

 ご飯も炊きあがり、すぐに食べるかと聞かれたので、化粧をしたいと申し出る。

「そのままでよくないか?」

 さらりと返されて返答に困った。

 平日は仕事があるからベースメイクしかしていない。まさに今と同じ顔。だからこそ休日は完璧にして、ちょっとでも女らしい部分をアピールしたいのに。

 でも仁くんにとっては、そんなのどうでもいいよね。

「……すぐ終わるから」

 仁くんをリビングに残して洗面所へと足早に向かう。ドレッサーはないので、化粧をするときはいつもここ。やりづらいけれど、あのシンプルな寝室に大きな私物を設置するのは気が引けた。

 この後、どうして私と結婚すると決断したのか問いただす予定をしている。面と向かって話をするのだから、自分を勇気づけるためにもやはりきちんとしておきたい。
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