嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 気合を入れて鏡に映る幼い顔と対峙していると、不意に鏡のなかに端整な顔が映り込んだ。

 驚いて振り返る。

「どうかした?」

「花帆はいつもそこで化粧をしているのか?」

「そうだけど」

 工房に出勤する日は化粧下地を塗って眉毛を描くくらいだから数分とかからない。だからこれまで一度も私が化粧している姿を見かけなかったのかもしれない。

「女の人は、ほら、なんて言うんだっけ。そういう専用のやつに座ってやるものじゃないのか?」

「ドレッサーのこと?」

「ああ、そうそう」

「実家にはあるよ」

 二年以上留守にするとはいっても、また両親が戻ってくる実家はそのまま残している。定期的に掃除する人を頼んでいるそうだ。だから私の物もいろいろ置きっぱなしにしてある。
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