嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「どうしてこっちに運び込まない?」

「どうしてって……邪魔になるかなって」

 そう言うと、仁くんはなにやら考え込む。

 なにが言いたいのかな。というか。

「まだ化粧の途中なの。中途半端な顔を見られるのが一番気まずいなぁ……なんて」

 あはは、と苦笑いをこぼした。

 私の顔になんて微塵も興味がないのは分かっているけれど、こちらとしてはできれば晒したくはない。

 それなのに仁くんは私の顔をまじまじと見て言う。

「今の顔も、化粧をしていなくても、花帆はいつでも可愛いと思うけど」

 一瞬、凍りつく。まさか仁くんの口からそんな言葉が飛び出すなんて。

 え? どういう意図?

 わけが分からない。お世辞だろうか。

 いつもの生真面目な態度で言われては、『嘘ばっかり~』みたいな軽い返しができない。

「悪い、邪魔したな」

 何事もなかったかのように仁くんがリビングへ戻っていっても、頭は混乱し、心臓が激しく脈打っている私はしばらくの間身動きがとれなかった。
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