嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 ぽつりぽつりと会話をしながら食事を進める。ふたりきりになると周りの音が異様に大きく聞こえて耳に響く。それくらい静けさが漂っている。

 本題に入るまでに空気を和ませようと努力したけれど、いつも通り会話はさほど弾まなかった。

「ちょっと真面目な話があるんだけど、いいかな?」

 お皿の中身が半分ほど減ったあたりで恐る恐る切り出してみる。仁くんは表情を変えずに「いいよ」とスプーンをお皿に置いた。

「……あのね、今さらって思うかもしれないんだけど。仁くんは、どうして私と結婚しようと思ったの?」

 まさかそんな質問が飛んでくると予想していなかったのか、切れ長の目が大きく見開かれた。

「気分を悪くしないでほしいんだけど、実は杏ちゃんから、仁くんは女嫌いなところがあるって聞いていたから」

 仁くんは目を伏せて黙り込む。

 私を傷つけないように言葉を選んでいるのかもしれない。ドキドキと鼓動する胸にたくさん空気を送りながら、固唾を飲んで返事を待った。

「実は、花帆の見合い相手は杏太にしようと両親は話していたんだ」

「え!?」

 初めて聞かされた事実に驚いて素っ頓狂な声が出た。
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