嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「それって、私や杏ちゃんのことばかりで、自分を犠牲にしたんだよね。だったら」

 続きが出てこなかった。

 だったら、お見合いの話なんか受けなくていいのに。そう言ってあげられれば仁くんは自由になれる。

 頭では分かっているのに、仁くんとの関係を手放したくなくて言えない。おもわず顔を俯かせた。

「そうでもないよ」

 ハッとして顔を上げる。仁くんはとても落ち着いた表情をしていた。

「俺は仕事を第一に考えたかったし、花帆が言った通りそもそも女性に興味がなかった。それなのに昔から馴染みのある会社の孫娘とか、そういった相手からの縁談も舞い込んできて困っていたんだ」

 ……縁談。聞き慣れないワードに、改めて仁くんは老舗和菓子店の跡取りなのだと実感する。

「花帆ならいいと思ったんだ」

「どうして?」

 淡い期待を抱きながらすかさず聞き返す。

「付き合いも長いし、信用しているから」

 求めていた返事じゃなくて胸がギュッと締めつけられたように痛む。

 そうだよね。女の人が苦手だと言っているのに、私だけ特別なわけがない。

 普通にショックだ。
< 67 / 214 >

この作品をシェア

pagetop