嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「でもそうやって聞くくらいだから、杏ちゃんにとって彼女の存在は、私にとっての仁くんみたいなものなんだよね?」

 杏ちゃんは「うーん」と低く唸る。

「許せない、顔も見たくない、ってわけではないなら、今すぐに決断をせずに様子をみてもいいんじゃない?」

 押し黙ったままの顔を見つめる。

 今の彼女と付き合って二年くらいだったはず。思い出もたくさんあるだろうし、そう簡単に割り切れるものではないのかもしれない。

「二股の期間はどれくらいだったのかな?」

「ここ一か月くらいの話らしい。本当かどうか知らないけど」

 口振りからして、もう彼女を信じられなくなっている気がした。

「私は杏ちゃんに苦しい思いはしてほしくないよ」

「……うん。ありがとう。もうちょっと考えてみる」

「ひとりで考えるのがキツくなったらいつでも呼んで。話し相手くらいにはなるからさ」

 運ばれてきたカルボナーラが伸びる前に口にせっせと運ぶ。

 さっきはああ言ったけれど、もし本当に仁くんが浮気をしたら私は許してしまうと思う。

 許すから、私と別れないでほしい。

 でもそういう対等じゃない関係って上手くいかないのかな……。

 実際、仁くんに嫌われないように気を使ってばかりだし。
< 72 / 214 >

この作品をシェア

pagetop