嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「こっちはこれで終わりだね。次は洗いものが溜まっているからやってもらえる?」

「はいっ」

 場所を移動しても、良いのか悪いのか仁くんの姿は視界に入ってくる。

 気持ちを切り替えて作業に集中したいのに、今日に限って阿久津さんが絡んできた。

「そういえば昨日チラッと見ちゃったんだけど」

「なにをですか?」

「香月さんと男の子がご飯食べているところ」

「えっ。見たんですか」

 窓際の席に座ったからといって、そう簡単に知り合いが目撃できるものではない。偶然ってすごいな。

「彼氏?」

「違いますよ。朝霧家次男の杏太さんです」

 苦笑いをこぼしながら言うと阿久津さんは目を丸くした。

「あれって杏太さんだったの? 久しぶりに見たからか全然分からなかった」

 杏ちゃんは繁忙期に朝霧菓匠の手伝いをしているので阿久津さんも顔は知っているようだ。

「気分で髪型とかすぐに変えちゃう人なので、雰囲気が前とは違うからじゃないですか」

「そうかも。イケメンだなとは思ったけど、そっか、杏太さんか」

 同性から見ても朝霧兄弟はイケメンだと思うらしい。

 まるで自分について言われたように鼻高々な気分になる。
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