きっと、月が綺麗な夜に。
美矢の撮影は、曇り空のくすんだ空の中開始した。
灰色味がかった鹿の子編みのベストに、僕のカッターシャツを合わせオーバーサイズで着こなし、美矢には珍しくタイトな白のフレアデニムを合わせた衣装で、漆黒の髪と同じ闇色の瞳が映えている。
「最初は無表情で、とくに動きもなく歌っているようにしてくれて構わないから」というケンゴの指示の元、伸びきったウルフショートの黒髪を頬に貼り付け、風に煽られながら美矢の唇が流れる曲に合わせて動く。
繊細な美矢の表情を逃すまい、と何キロあるか分からない重たそうなカメラをケンゴが担ぎ、もう1台、バズーカのようなゴツイカメラを師匠が扱う。
その2台をパソコンに繋ぎカメラワークを優が確認し、打ち合わせ通りの場所の指示を2人に送る、といったオペレーションで撮影が進んで行く。
僕に出来ることといえば、挟まる休憩時間に皆に飲み物を配ったり、組まれたタイムスケジュールを守る為に時間を見たり、後は機材を運ぶための運転くらいなものだ。
皆真剣に撮影を進めているというのに、僕は美矢のさっき言った言葉をずっと頭の中で繰り返している。
色んな気持ちが押し寄せて、どうにも上手く処理しきれない。