きっと、月が綺麗な夜に。
短時間でも寝られた事でスッキリしたらしい美矢とケンゴは、曇り空とは対象的な晴れ晴れとした顔で車から降りてくる。
優がヘアクリームとフェイスパウダーで美矢を整えている間、僕は雨が降った時の為の雨具とタオルの準備、ケンゴと師匠さんは機材の雨対策を始めた。
各々が出来る準備を整えて、MV撮影は終盤に差し掛かる。
「じゃあ、曲流すよ!美矢ちゃんは今日イチで、伝えたいことを表現する感じで!」
「出来るかは分かんないけど、やってみる」
潮風が、せっかく整えた美矢の髪の毛をまた乱れさせ、比較的長い前髪から、鈍く漆黒のビー玉が光る。
綺麗だ、と単純に思った。闇にいたとしても、くすんだ空の下にいたとしても、美矢の透明感や儚さから来るあどけない美しさは変わることがない。
そのやわっこい手をじんわりと伸ばした。それこそ、闇から光へ押し返すように。
触れられてないのに触れられたみたいで、押されてないのに胸の真ん中が痛い。
真っ直ぐな美矢の視線から目が離せなくて、やはり涙は零れはしないけれどかあ、と瞼全体が熱くなった。
その時、独特な湿気の匂いと共にポツンポツン、と水滴が落ち、やがてそれは強くなる。
空が我慢しきれなくなりついにーー雨だ。