きっと、月が綺麗な夜に。
濡れそぼった彼女の冷たい体を、大きなタオルでくるんで抱き締める。


「痛いよ、とら」

「ごめん。でも、今は離さない。それが僕の答えだ」


言葉足らずでごめんね。君のことが好きだ。どんな君だろうと。

そう心の中で呟いて、小さな体と僕の体の間に隙間ひとつ無いくらい、ピッタリとくっつくように更に抱き締めた。


「もう光だろうが闇だろうが何でもいいよ。押し返されないくらいくっついてれば、君、逃げれないだろ?」

「……ん。離さないで」


短い返事だったけれど、それだけで充分だ。この美しい生命を、愛おしい生物を、僕は離さない。

歪で不器用で臆病で、好きと言えなくてごめんね。
自惚れても良いなら、君が同じ気持ちだと過信して、この腕の中に君を閉じ込めるよ。


僕と美矢はしばらくそのまま、会話もなく互いを引っ付け、離れなかった。

いつの間にか雨は止み、温かな日差しが背中に刺さる。


雨に目もくれず飛び出したせいで僕もびしょ濡れになってしまったことと、しっかり3人に見られた事への羞恥心に苛まれたのは、雨が止んで数十秒後の話。
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