きっと、月が綺麗な夜に。
約束の時間まであと1時間無いくらい。せっかく買った本でも少し読もうか。
そうだ、子供達に夏休みの宿題で出した読書感想文、僕もせっかく休みだし書いてみようかな。

なんてちょっとした職業病を発症しながら、カフェの外から外の様子を眺めると、何だか、室内の騒がしさと、反比例して聴こえない外の騒がしさにざわざわ、と心の臓の奥が痒くなる。

訪れるキーンと高い耳鳴りに、島の自然で慣れた体が予感する。


「ひと雨ふるかな、これ」


ここ数年、小一時間位だけ激しい雨が降る変な天気の変動が夏場頻繁にあるのだけれど、その度、このあまり気分の良くない感覚に包まれる。


僕は、雨が嫌いだ。好きな人は少ないだろうがそういうことじゃなくて……嫌いなのだ。


「美矢、まだかなぁ」


ぽつりと呟いた時、鼻先に、もやん、とあの湿気った香りが漂った気がした。


アーケード街はその名の通り屋根が空を隠していて、濡れることはないのだけれど。

待てど待てど、その約束が果たされることは無い『あの日』を繰り返す不安がまた心の臓をざわざわと触ってくるのがやはりどうにも嫌だ。
僕はまだ買い物をしているであろう美矢を探すため、カフェの席から立ち上がった。
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