一匹狼くん、 拾いました。弐
「親子ってどういう話しながら食事すんの」
「んー学校がどうとか、仕事がどうとか。くだらない話」
微笑んで結賀は言う。
確かにアニメやドラマではそういうことを話しているかもしれない。
「俺、話すの慣れなそう」
「慣れるって。話していいか迷うことも、なんでも言ってみればいいんだよ。親ってのはそれだけで嬉しいもんだ。……たぶん。俺はそうしてた」
葵が教えてくれた。育て親のことを思い出しているのかもしれない。
そういうものなのか?
あ。フライパンの中にあったエビとアジの色が変わっている。
「茶色くなってる。白い粉つけてたのに」
「え、あぁ、油ところもと卵で茶色くなるんだよ。小麦粉とパン粉つけてるから。銀、タルタルソースは? 知らない?」
「うん、わかんない」
俺が頷くと、葵は眉を下げる。悲しいのかもしれない。俺が世間知らずで。
「葵、ちっちゃいエビない? それにかけて食べさせてみれば?」
結賀の提案に葵は頷く。冷蔵庫から白いソースをとって、フライパンから皿にエビを移す。二センチメートルくらいのその海老にソースをかけて、葵はそれを菜箸でとる。
「銀、あーん」
差し出されたエビを食べる。
「んっ、あっつ? おいひぃ」
ころもはサクッとしてて、中はふわふわ。ソースからは玉ねぎの食感がする。
「おっ、抵抗なさそう。ミカ、食える?」
「うん、もっと食べたい!」
俺が頷くと葵は嬉しそうに口角を上げる。
「はぁ。ひさびさの銀の笑顔いいな。やっぱりお前がそばにいてくれないとダメだ」
葵が呟いてくれた。葵も俺に依存している? していた方が嬉しいな。
「ミカは葵の癒しか。あ。癒しと言えば、ミカ、母さん達にお願いして犬や猫飼えば?」
結賀の提案に驚く。
「え、なんで」
「動物って癒しだから。ストレス解消・不安や孤独感の緩和に繋がるって、今調べたら」
結賀はスマホを見せて教えてくれる。インターネットには、ちゃんとそう描かれていた。
「……少し考える。余裕ができたらにはなると思うけど」
結賀は俺を見て微笑む。
「ん。ゆっくり食えよ? のどつまっちゃうからな」
頷きながらエビを噛む。美味しいし暖かい。好きだな、これ。
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なんで人って、忘れたいと思うことほど忘れられないのだろう。
「葵の車初めて乗った」
ご飯を食べ終わると、俺はすぐに結賀とわかれて、葵の車がある駐車場にいくことになった。
助手席にのって呟く。後部座席は、そこで虐待されたことがあるから乗りたくなかった。後ろって何しているかバレないから、叩かれたり腕縛られたりしたんだよな。
「えー初めてじゃないって。ほら、岳斗の葬式の日服貸したじゃん? あの時もこの車だったよ」
「覚えてない。記憶曖昧すぎる」
葵が俺を見て微笑む。
「マジ? ……ありがとな、今日は来てくれて。俺、もう銀に会えないかと思ってた」
赤信号で止まったところで、手を握られる。拒否れない。いや、拒みたくない。
「……俺は葵が好き。依存だけど。……離れることはないから」
「っ、ああ。もう二度とお前を傷つけない」
さらに強く握られた。
その言葉のどこが嘘で、どこが本当? 俺には一ミリもわからない。
それでも俺は、葵がいないと生きていけない。
はぁ。心が歪んでいるなぁ、俺。