一匹狼くん、 拾いました。弐
「えっ、あ……嘘。俊平?」

 ドアが開いた。

 義母さんは頰がこけていた。

「……久しぶり。少し、痩せた?」

「そうかもしれないわね。もう会えないかと思っていたわ」

 そっと頭を撫でられる。もう片方の手も伸ばして抱きしめようとしてきたので、慌てて後ろに下がる。

「俺、今でも母さんのこと許してないから」

 腕を引っ込めて肩を落としている。やめろ。被害者はこっちなのに、落ち込んでいるみたいな態度すんな。そんなことされたら、こっちが加害者みたいだろ。

「そ、そうよね。ごめんなさい。元気だった?」

 あんたのせいで元気じゃなかったよ、クソ野郎。そう叫びたいけど、家族の関係が壊れたら嫌だから、叫んじゃダメだって理性もある。

「それなりに。……母さん手、出して」

首を傾げながら出された手をそっと握る。

「俺は葵が義母さんの子供で、俺は整形されてないことも、もう知ってる。義母さんのことは忘れようと思った。今は実の親からたくさん愛をもらっているし、少しずつでも俺が望む家族を作っていけると思ったから」

握った手の力が強くなってしまう。

「っ、それでも俺はあんたが好きで、あんたを愛してて、でもやっぱり憎いし、許せないし……どうすればいいかわかんないっ!」

泣きながら叫ぶ。いっそ嫌いだって、愛してないって言えたらよかったのに。

「俊平っ!」

 腰を引き寄せられて抱きしめられる。

「……やめろ。嫌いだ、あんたなんか」

 義母さんはきっと、この言葉が嘘だってわかりきっている。

「ごめんね、ごめんなさい! ひどいことをしたわよね。ずっとずっと、許されないことをしてきたわ。……でもね、私は俊平を愛してる。俊平が死んだら生きていけないの。……だからお願い、私と縁を切ろうとしないで」

 わからない。

「それって、純粋な愛? それとも同情? 後者なら今ここで、死ねよ」

義母さんの首を軽く掴む。

「神様に誓って、純粋よ」

 首から手を離す。

「……俺の親権は実の母さん達にして。今度また三人で会いにくるから。……俺はその手続きが済んでも、不定期で義母さんに会いにくる。何ヶ月に一回になるかわかんないけど、泊まったりご飯食べに来たりすると思う」

 また抱きしめられてしまう。


「ありがとう、俊平」

「っ、あんたのためじゃない。俺が壊れないためにあんたが必要なだけ。そういう存在になれてよかったな、義母さん」

 手をそっと掴んで身体から離れさせて、葵のそばに行く。ぎゅっと服の裾を掴んだら、手を握ってもらえた。

「……おばさん、元気でな」

「え、あ……葵くん? ごめんね、あの人が貴方を捨てるのを止められなくて」

 葵は首を振る。

「俺はあんた達に育てられなくてよかったと思ってるから。じゃ」

手を振って義母さんと別れた。涙が頬を伝う。

「本当に純粋なのかよ、あんなこと言ったくせに」

「純粋だ。そうじゃないと思ったら殺していい」

「……っ、うん」

 背中を撫でてくれる葵の言葉に、何度も頷く。

 信じたい、義母さんを。信じれば真実になるから。
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