一匹狼くん、 拾いました。弐
「これからどうする? 俺のBARに泊まるんでも、仁や結賀の家に行くんでもいいけど」
車の後部座席にいる俺にティッシュの箱を渡してから葵は尋ねる。
「っ、涙止まんないし、このまま仁達と会ったらすごく心配されそうだから、葵の店がいい」
「言うと思った。あ、ごめん……まだ凪いるかも。店の片付けだけしといてって頼んでた」
そう呟いてから、葵はまたハンドルを握る。
「……葵、凪って十代? 二十歳より下に見えるんだけど」
「あいつは十五歳。俺の育て親の実の子供」
え?
「BARで働いてていいのかよ」
「ダメだな。でもあいつから頼んできたんだよ。あいつ、私立の中学行っててさ。高校もだから試験済んだらエスカレーター式で入れるんだよ。試験終わって今暇らしくて、男子寮に住んでる分母さんに会えないの寂しいから、俺の店で働きたいって。俺にも母さんにも会えるから」
あぁ、なるほどな。十五歳で寮通いじゃ、確かに寂しくなりそうだな。
「個人店じゃなかったら葵絶対怒られてたじゃん、お偉いさんに」
「本当だよな。バイト初日はすげーひやひやした」
くすくす笑いながら言っている。
「気をつけろよ、バレないように」
「わかってる」
「寮は何時までに戻ってんの?」
「消灯が九時だからそれまでに。いつも八時半までは店いるんだよ」
今八時過ぎだもんな。じゃあ店着いたらまだいるか。
「俊……前に俺の店で働くかっていったじゃん。あれ、気にしないでお前大学行けば?」
「えっ。でも行きたいところない」
予想外の話に戸惑ってしまう。
「文学部でもいいから行けよ。お前頭良いんだし、これからは学費払ってもらえるんだから」
「……文学部って、卒業したら事務なれる?」
「え? んー事務か経理がいいなら経済学が安心かもな。法律とか文学部でもなれると思うけど、一番有利なのは経済。パソコン好きだったっけ?」
首を振る。
「俺、接客したくない。必要最低限しか人と関わりたくないから。販売や営業は無理。たぶん営業アシスタントとかコールセンターも」
たくさんの人と関わるのは怖い。腹の奥底で、何を考えているのかわからないから。
「あぁ、消去法か。んー確かに人との関わりは少ないけど、事務は、人事事務っていう退職や福利厚生の手続きをするのもあるからな。あと事務って雑用だぞ。書類整理に郵便の仕分けに、マニュアルのある最低限の電話対応に、新人の案内とか。やりがいがあるかどうか」
「……やりがいは別にいい。他にしたいこと思いつかないし」
「んー、俊って教師に意外となれそうな気がするんだけどな。あとは芸術家。デザイナーとか絵描きとか」
瞳をぱちぱちさせてしまう。
「なんで」
そんなの考えたこともなかった。
「美術の成績も悪くないだろ? あと一年半以上あるんだし、ムサビ目指せばいけると思うんだよな。俊は生まれ育った環境が人と違うから、絵に個性が出てそうだなと思って」
「よくわかんない。教師は?」
確かに成績は5だけど、俺は美術部でもないし。それに美術の先生に褒められたことはあるけど、ああいう先生って、絵が気になったら誰でも褒めるんじゃないのか?
「教師はほら、保健の先生ならあまり人と関わらなそうだろ? 他の科目でも、生徒と先生としか関わらないからさ。常識のある人多いと思うし」
なるほどな。
「ゆっくり考える」
眠くなってきたので、目を閉じてからもう一度進路のことを考える。全然わからないなぁ、未来なんて。
車の後部座席にいる俺にティッシュの箱を渡してから葵は尋ねる。
「っ、涙止まんないし、このまま仁達と会ったらすごく心配されそうだから、葵の店がいい」
「言うと思った。あ、ごめん……まだ凪いるかも。店の片付けだけしといてって頼んでた」
そう呟いてから、葵はまたハンドルを握る。
「……葵、凪って十代? 二十歳より下に見えるんだけど」
「あいつは十五歳。俺の育て親の実の子供」
え?
「BARで働いてていいのかよ」
「ダメだな。でもあいつから頼んできたんだよ。あいつ、私立の中学行っててさ。高校もだから試験済んだらエスカレーター式で入れるんだよ。試験終わって今暇らしくて、男子寮に住んでる分母さんに会えないの寂しいから、俺の店で働きたいって。俺にも母さんにも会えるから」
あぁ、なるほどな。十五歳で寮通いじゃ、確かに寂しくなりそうだな。
「個人店じゃなかったら葵絶対怒られてたじゃん、お偉いさんに」
「本当だよな。バイト初日はすげーひやひやした」
くすくす笑いながら言っている。
「気をつけろよ、バレないように」
「わかってる」
「寮は何時までに戻ってんの?」
「消灯が九時だからそれまでに。いつも八時半までは店いるんだよ」
今八時過ぎだもんな。じゃあ店着いたらまだいるか。
「俊……前に俺の店で働くかっていったじゃん。あれ、気にしないでお前大学行けば?」
「えっ。でも行きたいところない」
予想外の話に戸惑ってしまう。
「文学部でもいいから行けよ。お前頭良いんだし、これからは学費払ってもらえるんだから」
「……文学部って、卒業したら事務なれる?」
「え? んー事務か経理がいいなら経済学が安心かもな。法律とか文学部でもなれると思うけど、一番有利なのは経済。パソコン好きだったっけ?」
首を振る。
「俺、接客したくない。必要最低限しか人と関わりたくないから。販売や営業は無理。たぶん営業アシスタントとかコールセンターも」
たくさんの人と関わるのは怖い。腹の奥底で、何を考えているのかわからないから。
「あぁ、消去法か。んー確かに人との関わりは少ないけど、事務は、人事事務っていう退職や福利厚生の手続きをするのもあるからな。あと事務って雑用だぞ。書類整理に郵便の仕分けに、マニュアルのある最低限の電話対応に、新人の案内とか。やりがいがあるかどうか」
「……やりがいは別にいい。他にしたいこと思いつかないし」
「んー、俊って教師に意外となれそうな気がするんだけどな。あとは芸術家。デザイナーとか絵描きとか」
瞳をぱちぱちさせてしまう。
「なんで」
そんなの考えたこともなかった。
「美術の成績も悪くないだろ? あと一年半以上あるんだし、ムサビ目指せばいけると思うんだよな。俊は生まれ育った環境が人と違うから、絵に個性が出てそうだなと思って」
「よくわかんない。教師は?」
確かに成績は5だけど、俺は美術部でもないし。それに美術の先生に褒められたことはあるけど、ああいう先生って、絵が気になったら誰でも褒めるんじゃないのか?
「教師はほら、保健の先生ならあまり人と関わらなそうだろ? 他の科目でも、生徒と先生としか関わらないからさ。常識のある人多いと思うし」
なるほどな。
「ゆっくり考える」
眠くなってきたので、目を閉じてからもう一度進路のことを考える。全然わからないなぁ、未来なんて。