一匹狼くん、 拾いました。弐
血も繋がってないくせに。仁side
「はぁっ、はぁはぁ」

 バイクを駐車場に停めると、俺はすぐにマンションまで走った。

 部屋の前に立っている康弘さんに声をかける。

「康弘さん……いつも急に来ないでって。鍵持ってないんだから」

「え、あ……ごめんごめん。仁くんが早く来てくれるようにしたくてさ」

 真っ黒だった髪は色素が抜けて、焦げ茶色だ。手足は細長くて、唇は薄い桃色。鼻筋はすっと通っていて、垂れた瞳はどこか儚げだ。

「はぁ……ご飯、食べてない?」

「うん。病院行ってから、どこか食べに行こう」

 腕を触られて、柔らかい顔で微笑まれる。

「……病院は今度でもいいです? 友達が総合病院の精神科行きたいらしくて、それに合わせたいです」

「ん、わかった」

「はぁ。結賀も康弘さんも大袈裟なんですよ。こんなのかすり傷なのに」

「でも君、ほっとくと料理して悪化させるだろ?」

 否定できない。

「悪化はさせないよう気をつけます」

「そこは絶対に悪化させないって言ってくれないと。じゃ、行こうか」

 そのまま腕を掴まれ、康弘さんはずんずん俺と一緒に前に進んでいく。

 こういうところが苦手なんだ。

 俺はいつだって大人を信頼したくないって思っているのにどんどん近づいて、距離を縮めようとしてくるところが。 

「康弘さん手、暑い。どこ行くんです?」

 ぱっと手を離してから、康弘さんは俺を見る。

「んー甘いものが食べられるところ? 確かオムライス屋あったよね、近くに。あそこ期間限定のデザートメニューあった気がする」

 そういえば。

「ラカルです? パンとオムライスが人気の」

「そうそれ! 車、ここの近くのコインパーキングに停めてあるから」

 え。俺は思わず眉間に皺を寄せる。

「じゃあ車の中で待っててくださいよ」

 外にいた意味ないだろ。

「あはは。ついね。仁くんならこういうの文句は言うけど、怒りはしないから」

「そりゃあそうですけど、風邪引きますよ」

 隣に行ってから言う。

「あはは、そうかもしれないね」

「笑いごとじゃないですって」

 手の平が近づいてきて、頭を撫でられる。

「……康弘さん、俺、もうすぐ彼氏できるので。二人きりの時以外はそういうことしないでください」

 首を振ってから髪を整える。

「へぇ? じゃあ今度、挨拶しないとだね」

 義理の息子がゲイとわかったのに、嬉しそうに笑っている。

「驚かないんですか」

「驚いてる。でも君から彼女できたって聞いた方が、もっとずっと衝撃だよ」

 俺が女嫌いだってわかっているからか。
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