一匹狼くん、 拾いました。弐
「仁くん、隣座る?」

 コインパーキングにあった車のそばに行き、康弘さんは尋ねる。

「後ろでいいです。あっ。今日って、鈴音来てないです?」

「来てないと言いたいところだけど」

 泰弘さんがドアロックを解除する。後ろのドアを開けた瞬間、俺は抱きつかれた。

「おにい!!」

「……おい。近寄んな、ガキ。康弘さんやっぱ前で」

 あまったるい苺の香水の香りが鼻腔をくすぐる。
 くりっくりの瞳に長いまつ毛、細長いけど肉付きのある手足。

 中学生なのに五センチメートルのヒールに、白いミニスカに黒いリボンがついたピンクのニットという地雷系っぽい格好に、耳より上のツインテール。

 義理の妹の鈴音は何も変わってはいなかった。

「えーおにい!」

「お前なんかに兄貴って言われる筋合いはねぇ」

 康弘さんが助手席のドアを開けてくれたので、鈴音から離れて一目散に前へ行く。

 気持ち悪い。見ているだけで吐き気がする。俺から全てを奪ったこいつだけは。

「仁くん、落ち着いて。嫌われるよ?」

「嫌われたいんすけど」

 シートベルトをしてから腕を組む。

「はぁ。……鈴音、夏休みの宿題は?」

「終わったよ! じゃないと来ちゃいけないって話でしょ?」

ちっ。じゃあ帰らないか。

「母さん一人?」

「ううん。今日は仕事場に泊まるって。料理教えてって言っている生徒がいるから」

「料理教室なんて、いつまで続けられんだろうな」

習いごとって、いつか辞める人が多いからな。子育てが落ち着いてから、母さんは昔やっていた料理教室を再開した。それが今は順調で、そこそこ収入があるらしい。額は知らないが。

「おにいも習いに来ればいいのに。料理好きなんでしょ?」

 鈴音がミラー越しに俺の顔を見る。

「ハッ。あんな裏切り者から教わることなんて一つもねぇ」

 わざと意地の悪い言い方をした。俺の傷口に土足で足を踏み込んできたのがムカついたから。

 うぜぇんだよ。やっぱりこいつだけは嫌いだ。



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