一匹狼くん、 拾いました。弐

「ただいま」

 九時半ごろになると、下から声が聞こえた。康弘さんだ。

「あれ、仁くーん? 帰ってる?」

 仁が目を覚まして、瞬きをする。拳をぎゅっと握っている。力を込めすぎたのか、血が出た。気にも留めないで部屋を出てしまう。

「おいっ」

 結賀はすぐに追いかける。

 ガン! 何かが倒れたような音が響いた。

 なんだ、今の。

 俺と仁の妹も慌てて一階に行く。

 仁が康弘さんを押し倒している。

「はぁはぁ。……っ、楽しかったか。いい義親のフリして、金を送るのは」

 瞳が血走っている。康弘さんの首を絞めた。

「ゴホゴホ! じ、仁くん、な、何を」

「とぼけんな! 仕送りが父さんなのも、手紙が来てるのもあんたは言わなかった! ずっと……あんたにしか、見られてないと思ってた」

 首から手を離して、仁は康弘さんを蹴る。

 康弘さんの通帳は、毎月十万円ずつ一日に増えて、それが、十日に仁宛に送金されていた。

「すまない……うっ!」

「何が仁くんだよ。自分だけが俺を大切にしてる、愛してくれてると考えて欲しかったか」

 瞳が鋭すぎる。恐ろしくて鳥肌が立った。

「私はただ、鈴音みたいに君も大切にしようと」

「してねぇよな、俺が見つけなかったら何年隠してた」

 バツが悪そうに康弘さんは下を向いてしまう。

「申し訳ない。でも、俺は君を本気で」

「は、今更何言ってんだ」

 涙を流しながら呟いてしまう。バカでもわかるだろ、愛してないことくらい。

 仁が康弘さんの胸を踏んでしまう。

「っ、話を逸らすんじゃねぇ! 答えろ。 ……死ぬまでか」

 足をどかして、仁は家を出ていく。

「えっ、おい!」

 思わず声が出る。

「仁!」

 結賀も声を上げる。

 仁の父親の住所を聞かないとなのに。

 仁を追わないと。でも。

「っ、わかんねぇよ。仁のことが」

 この家に来てからずっとそうだ。家庭環境も、親の仁への態度も最悪すぎて、なにも想像できない。

 辛すぎることしかわからない。


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