一匹狼くん、 拾いました。弐

 俺はずっと暴力を受けていた。岳斗も親に殺されたようなもんだ。でも、あいつは親に無視をされて生きてきた。俺みたいに、暴力じゃなくて。そっちの方が俺は耐えられない気がする。

「なぁ」

 キッチンに行って、結賀はしゃがみ込む。

 え、誰かいたのか? まさか。

「やめて、離して!」

 仁の母親の腕を引っ張り上げて、俺と仁の妹のそばまで連れてきてしまう。

 聞いていたのか、ずっと。

「なんで黙ってた。康弘を庇えよ。じゃないとあいつは……」

「北海道で暮らすって? いいじゃない」

「は」

 なんつった。

「あの子が帰ってくるのはもう、うんざりなの。これでいなくなるならせいせいするわ」

 頼むから、いい加減にしてくれ。

「あいつは、お前のなんなんだよ」

 仁の母親の胸ぐらを掴んでしまう。

「いじけたクソガキよ。私に理想の親を押し付けて、叫んでる」

 頬を殴った。手が痛い。

「あいつはお前に憧れて、ケーキ屋になりたがってんだよ……っ」

 ふざけるな。こんな親に憧れて、仁はパティシエになりたがっているのか? そんなの残酷すぎる。

「だから何? あんな子がケーキなんて作れるのかしらね」

「作れるよ、少なくともお前よりは」

 折れていない方の手で、結賀は俺の腕を掴む。そのまま結賀は歩き出す。

「え、結賀? どこに行くんだよ」

 仁のいる場所がわかっているのか?

 結賀は駅の方に向かって行く。

「んー、心当たりが一個あって。あいつが俺の家で荒れてたの、ミカ覚えてる?」

 そういえば。

「壁殴ってたやつ?」

「そ、親のこと考えてると不安定になりがちなんだよな」

 じゃあ今もそうなのか。大丈夫なのか?

「俺が華龍に勧誘してた時、あいつはよく家に帰ってなかった。そん時に泊まってたのが……」

 ロータリーで手を上げて、結賀はタクシーを呼ぶ。

 タクシーに二人で乗り込んだ。

「どこに向かいますか」

「ま、待ってください、私も行きます!」

 仁の妹が走ってそばにくる。助手席が開いた。すぐに仁の妹が入る。

「運転手さん、ケーキ屋。えっと……ハニーフローまで」

 結賀はスマホを見ながら言う。

「あぁ、かしこまりました」

 ドアが閉まり、タクシーが発車する。見つかるといいな、仁。
< 253 / 265 >

この作品をシェア

pagetop