一匹狼くん、 拾いました。弐
愛してなんて、言わない。

仁side

 生まれた場所を俺は間違えたのかもしれない。たぶん。いや、間違いなくそうだ。

「仁……いつまで泣いてんの」

 ボウルにある生クリームはツノが立っていて、いちごは半分に切られている。スポンジに生クリームを塗りながら、 紅成(こうせい)さんはため息をついた。

 ハニーフローは母さんのケーキが委託販売されている、ケーキ屋だ。小学生の時、俺はよくここに来ていた。母さんが作ったケーキを一番に見たかったから。完成したものは家では見せてくれなかったんだ、恥ずかしがって。

 紅成さんは、もうハニーフローに五年以上勤めている。だから俺と母さんの仲が昔は良かったのも、今はそうじゃないのもよく知っている。

「うっ、すいません。そのうち泣き止むので」

 袖で涙を拭う。

「ほら、いちご」

「そのケーキ、誰に」
 差し出された、ヘタ付きのいちごを食べる。甘くて美味しい。そのせいで余計泣けてきてしまう。

 白いコック帽に、赤色のチェック柄のネクタイに、白いシャツ。茶色い垂れた瞳に、インドアっぽい白い肌。水仕事のせいか、アカギレした手がかっこいい。


「お客さん。明日誕生日なんだって、娘の」

「いいな」

 俺も親に誕生日を祝われたい。

「仁、家、帰ったんだろ」

 紅成さんが呟く。

「……帰らなければよかったです」

 そうすれば、何も知らないでいられたのに。

「そうか。泊まりたいなら、いていいから」

 よかった、紅成さんが変わっていなくて。紅成さんは、昔から優しい。何があったんだとも、どうしたとも聞かないで、ただ寄り添ってくれる。

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