一匹狼くん、 拾いました。弐
「紅成さん、俺の親父、北海道いました」
真っ白なケーキに、紅成さんはチョコレートプレートをのせる。
「遠いな。離婚した親?」
自分の後ろにいる俺を見て、紅成さんは首をかしげる。
「はい。……ずっと教えてもらえなくて」
眉間に皺を寄せてから、紅成さんはケーキを冷蔵庫にしまう。
「行くのか」
「はい。行きたくねぇなぁ」
気乗りしない。番地も書いてなかった奴だし。
「ケーキ、食うか」
話そらした。こういうところが好きなんだよな。
「……今はいいです」
まだ食べる気になれない。
「パンは。シナモンとアップルが残ってる」
「シナモンで」
紅成さんが厨房の奥へ行く。包丁やボウルなど、調理道具でごった返している部屋の方。
オーブンの余熱をしてから、紅成さんは俺の隣に戻ってくる。
「甘党なんだな、まだ」
「……嫌ですけどね」
親の影響でなったし。
「いつ行くんだ」
「北海道? 早ければ明日……一人で行こうかな」
俊と結賀と行くつもりだったけど、今はそうしたい。
「送ってやろうか」
チン!と音がして、紅成さんはまた厨房の奥へ行く。
え、今、なんて。
「や、休み取れるんですか」
「あぁ。でもちょっと待って、シフト調整する」
シナモンロールが乗った皿を持って、紅成さんは戻ってくる。
甘い匂いに、つい口元が緩む。椅子の肘掛けに置いていた手で、口を触る。笑いたくない、甘いものなんかで。
ドンドン!
店内の方から音がする。もう閉店したのに。あ。
「なんだ? 今日は来客が多いな」
俺に皿を渡してから、紅成さんは厨房を出て、店内へ行く。
立ち上がって外を見る。結賀と俊がドアをノックしている。厨房のドアを閉めて、奥の部屋に隠れる。見つかってしまった。まだ、心の整理ができてないのに。
シナモンロールを一口かじる。アイシングがやけに甘い。焼きたてだ。ほっとして、息を吐いた。