一匹狼くん、 拾いました。弐

 コンコン。厨房のドアから音がする。紅成さんだ。

「仁、友達来てる」

「すみません、会いたくないです」

 厨房のドアが開いた。でも、紅成さんしか俺のいる部屋に来ない。

「俊と結賀って。知ってる?」

「同級生です」

 紅成さんが振り向く。

「ごめん、少し待ってて!」

 ドアを閉めてくれた。

「妹も来てる」

 思わず口を開ける。来ると思わなかった。

「一緒に実家、行ったのか」

「はい。全部見られた」

 どこまで、紅成さんに話そう。家のことは、深く知らないよな。

「見せてよかったのか」

「……どうなんでしょう」

 ガキみたいなことしたし。紅成さんが、右側の口角を上げる。

「曖昧だな」

「あの、紅成さん、親ってなんですか」

 シナモンロールを洗い場のそばに置く。半分しか食べれなかった。

「離れられないもの」

 言葉が重い。

「一緒にいないとダメですか」

 それは嫌だ。

「いや。喧嘩したらいい」

 瞬きしてしまう。

 え。

「ち、父親と?」

「両方と。ぶつかれ」

 いいのかな、そんなことして。

「殴るかも」

「止めてやるよ」

 歯を出して笑ってくれた。その言葉に、ひどく救われた。

「紅成さんの飯、食いたい」

「四人でな」

 手を握って、紅成さんは厨房のドアの方に行く。

 まだ顔を合わせる気になれない。紅成さんの服の裾を掴む。

「待って」

「厨房で食うか」

 立ち止まって、紅成さんは尋ねてくれる。

「はい。ドアは開けて」

「わかった。飯は魚? 野菜?」

 紅成さんが俺の手を触る。暖かい。

「野菜で」

 手を離して、俺は一歩後ろに下がる。

「仁! よかった」

 ドアが開いて、店内にいる俊が俺を見る。

 紅成さんの背中に隠れて、様子を伺う。結賀と鈴音が隣にいる。

「ごめん」

「気にすんな。見つかってよかった」

 結賀を見て頷く。


 ポトフのジャガイモの匂いが鼻腔をくすぐる。

「うまそー」

 元気な結賀の声が響いた。

「仁はあんまいらない?」

「はい。少なめで」

 食欲がない。

「結賀は大盛りか? 俊くんは?」

 鍋からポトフをすくいながら、紅成さんは尋ねる。

「仁と結賀の間くらいで」

 紅成さんが頷く。

「あっつ」

 底が深い皿を受け取って、じゃがいもを食べる。ホカホカだ。

「火傷するなよ」

噛みながら頷く。ゆっくり食べないと。

「紅成さん、上に住んでるんですっけ?」

 結賀は首をかしげる。

「いや、ここの隣。上は服屋な」

「社員寮でしたっけ」

「そー。そこに住んでる社員にシフト代わってもらえば、送れる」

 なんだか申し訳ない。

「電車と飛行機で行きます」

「却下」

 優しすぎる。
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